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不動産の鑑定評価って何(8)接道義務を満たさない物件の評価について

2023/7/15 土曜日

 不動産に関わる仕事であれば、仲介、設計や測量といったジャンルを問わず、恐らく大多数の方が、仕事を始めた早い段階で否応なく触れるだろう常識中の常識に「建築基準法の接道義務」という話があります。これは「都市計画区域(準都市計画区域)内の土地に建物を建てる場合、原則としてその土地が建築基準法上の道路に2m以上接している必要がある」という建物の建築要件を定めたものです。

 従来の道路(市町村道)に小さい道路を突っ込んで分譲された「ミニ開発」の住宅地域を皆さんもご近所で見たことがあるか、または実際にお住まいの方もいるかもしれません。このツッコミ道路は、管轄の役所が「この道路は建物を建てるために建築基準法の道路として指定しました」という所謂「位置指定道路」という扱いになっていることが多く、この奥の二つの敷地は大抵上記の接道義務を満たすために入口部分が2m、この位置指定道路に接する形で区画割されていることが多いです。

             

 従って以下の図のAの様な道路に接していない土地内ではそのままでは建物を建てることは出来ず、接道義務を満たす為に隣の土地Bについて原則幅員2mを確保して公道へ接続する利用権を設定する必要があります。具体的にはその部分を借りるか、買い取って自分の所有にするか、または等価交換により取得するという話です。

 なお民法では「囲繞地(いにょうち)通行権」という制度があります。ここで言う「囲繞地」とは、この図面内では土地Bに相当し、土地Aの様に周りが土地に囲まれて公道に接していない場合(この場合のA地を民法では袋地(ふくろち)という言葉で表現されます)その袋地の所有者は囲繞地であるB地を通行して公道まで出ることが出来るという権利を定めたものです。

 ここでポイントなのが、この囲繞地通行権は通行権を有する者のために必要最小限とされており、必ずしもその幅員が建築基準法の2mを担保するものではない、という事ですね。

 裁判の判例を調べてみると、通行権として認知された幅員が接道義務を満たした場合とそうでない場合、様々な判断がなされている様子ですが、接道義務の確保が認められた場合も、過去の経緯や現在の物理的状況などを踏まえた上で、「通行権」として妥当と判断された幅員が結果的に接道義務を満たす形になったという話で、最初から接道義務の為に通行権の制度がある訳ではないという事は一般的な認識の様です。

 私たち鑑定士がこの様な状況にある土地(無道路地)を評価する場合、囲繞地通行権の存在、周辺の利用状況や法的規制を考慮したの買収や賃貸の可能性、場合によっては対象土地所有者と周辺土地所有者の人的関係までも踏まえた上で「対象土地が接道義務を満たすことのできる可能性」を判断して評価を行う事となります。

 何れかの形で接道義務を満たせる可能性が高いと判断した場合は建物建築が可能であることを前提とした宅地としての価格から、その状況を構築するにあたり必要となるであろう費用(買取、賃貸の費用)や、それらの手間が発生することによる市場性の減退などについてのディスカウント(定量的な把握は難しい部分もあります)を考慮して価格を算出することになります。

 一方最近評価した都内の案件で以下の様な物件がありました。

 上図の赤枠部分は建物が建っている土地ですが、これらの土地は公道から狭い通路(幅員は1.5m程度で建築基準法の道路には該当しない)を通じて出入りされており、接道義務を満たしていると思われるのは公道に面している二つの土地だけで他の建物は全て法的に難のある状態です。評価対象はこの通路の一番奥に立地するアパートでした。さすがにこの状況では対象物件が接道義務を満たせることは、簡単には出来ないと判断し、土地価格は同様に接道義務を満たしていない周辺の売買事例から評価を行いました。結構東京ではこの様な状況のエリアは少なからず見られる為、同様の案件の事例は結構見つかりました。

なお対象アパートは満室稼働で賃料収入が発生していましたが、鑑定評価としては法的に難のある物件から発生する収益を価格に反映させることは出来ず、またこの様な物件は、基本的に銀行からの融資が難しい(一部ノンバンク系の金融機関では立地によって検討してくれる場合もあるとの話です)ので、一定期間経過後に建物を取り壊す想定で評価しました。

しかし、この想定は恐らく現実的には実現しないと思います。本件は立地的にもある程度の賃料収入が今後も見込める可能性は高い案件なので、投資家の方からの需要があり、今後も賃貸に供されたまま存続すると思います。また現実の周辺取引は上記の想定で算出した価格の水準までディスカウントされている事例が多く、高い利回りが期待できる案件ともいえるので、意外とこの様な案件を好んで購入される投資家の方も少なからずいらっしゃるかもしれないですね。

なお、当事務所ではこの様な建物の再建築ができない物件の売却相談も承っています。

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