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不動産の鑑定評価って何?(5)不動産鑑定ではどの様に不動産を評価するか①

2022/10/23 日曜日

 こんにちは、埼玉県で独立自営の不動産鑑定士、矢口真実です。

 不動産鑑定をやっていてある種の虚しさを感じる場面として、お客様に一生懸命書いた不動産鑑定評価書の中身を殆ど読んでもらえないという事があります。

 大抵のお客様は一番最初に記載してある「評価額」という結果にのみフォーカスされることが多く、中身はややこしいので関心もなく、読むのも面倒臭いという話になる訳です。

 まあ、あのゴチャゴチャ専門用語と理屈と細かい数値を並べ立てた文章を読んでいて楽しいとか、興味を持ちたがる人は極々少数派だと思いますし、それに不平がある訳では全くないです。

 ですが、私たち不動産鑑定士がその指針である不動産鑑定評価基準に則り、どの様なプロセスで価格を算出しているかの概要を僅かでも知って頂けると、不動産鑑定評価にご縁があった皆様も少し見方が違ってくるかと思います。

 不動産鑑定は、その対象となる物件について、「現況を踏まえた上で、将来的なストーリーを描き、そのストーリーに基づいてある時点の価格を判断する」という作業となります。

このストーリーを描く際に鑑定評価では「最有効使用」という概念が中核となります。不動産鑑定評価書では対象物件について「○○の利用を最有効使用と判断した」いう記述が必ずあります。

この最有効使用という言葉は「ある不動産について、その使用方法を前提として物件の購入を考えた場合、最も高い値付けが出来る使用方法のこと」を意味しています。と言っても少しわかり辛いので以下に例をあげます。

例えばある幹線道路沿いで周辺建物の利用状況が均一でなく、混在している様な場所(私の地元周辺ではこのようなエリアがしばしば見られます)において、以下のような土地(更地)が売りに出されていて、その土地が欲しいと考える買い手(需要者)が様々出現し、買い手の利用目的が以下の通り三種類に分かれたとします。

 この例では買い手として倉庫利用、店舗利用を目論む法人、マンション開発を検討するデベロッパーを想定していますが、当然売主は一番高い価格(3億5千万)を提供したデベロッパーに売る事になります。

 従ってこの土地の最有効使用はマンション用地ということになります。

 鑑定評価の場合、物件が実際に売りに出されるわけでは必ずしもありませんが、仮に売りに出されたとしたら、どんな買い手がどんな利用目的でその物件を買いたいと考えるか?を検討し、その物件の最有効使用を目論む買い手が物件を購入することを前提として評価を行うことになります。

 ここで、いくつか注意点があります。

 上記の例は更地の判断事例として記載しました。しかし多くの不動産は既に建物が建っており利用中です。従って建物と土地の評価の際は「現在利用中の建物が更地の最有効使用と合致しているか」を判断することになります。合致している場合は大抵は現況を所与として評価しますが、合致していない場合はそれにより発生するだろうディスカウントを評価額に反映したり、場合によっては建物を取り壊して更地化することを前提として評価することもあります。※

 ※例として従来は小規模の工場を中心とするエリアが工場の閉鎖と共に戸建分譲の業者に売却され、周辺には戸建分譲が多くなった中で、残っている工場の鑑定をする場合、取り壊して業者への販売を前提として評価する(最有効使用を分譲用地と判断する)ことが最近では良くあります。

 また最有効使用の判断は、将来予測も含んでいる為、結果的には誤りとなる可能性もあります。上記の例で実際にマンション業者が購入して、マンションを建てたまではよかったけど、思うような価格で売ることが出来ず、プロジェクトが大赤字になってしまった場合などは、その判断が間違っていたという事になります。

 将来の事は確定的には誰にもわからないので、その描いたストーリー、判断自体が不当であったという事ではありません。判断した時点では「結果的に間違いだったかもしれないが、その時点では予測が難しく仕方なかった」と言えることも往々にしてあると思います。

 しかし中にはストーリーを「意図的に」歪曲させて描く事で、評価額も非現実的な水準になってしまうことがあります。

 不動産鑑定士が懲戒処分を受けた例としてよく聞くのは、行政的な規制などにより、本来は開発・造成の難しい山林などを開発可能として、デベロッパーによるプロジェクトを想定して評価してしまうケースがあります。このような場合、調査をした時点において、役所に対する聴取を十分に行えば、開発不能な土地であることは当然判断されて然るべき内容である為、不当鑑定として咎められても仕方がないという訳ですね。

 皆さんがもし「不動産鑑定評価書」を手に取られる機会があれば、その中にどのようなストーリが描かれているか?について概略だけでも留意してご覧いただくと、少しは興味を持っていただけることがあるかも?しれません。といっても、やはりややこしいことには変わりはありませんが。。