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不動産の鑑定評価って何?(3)必要な場面② 公的な評価について その2

2022/10/13 木曜日

 こんにちは、埼玉県で独立自営の不動産鑑定士、矢口真実です。

皆さんは土地について「一物四価」という言葉を耳にされたことはありますでしょうか?

これは同じ一つの土地について、目的に応じた四つ別々の価格が存在していますという話でして、以下の価格を指します。

①実勢価格:ある時点において実際にその土地が取引されるだろう(またはされた)価格

②公示地価と基準地価※:全国の任意の土地について各年の1月1日(公示地価)、7月1日(基準地価)時点の㎡単価

③相続税路線価:土地の相続がなされた際の基準となる価格、(時点は毎年1月1日)前回のブログをご参照ください。

④固定資産税評価額:土地の固定資産税を計算する際の価格 (時点は毎年1月1日、3年に1回ごと税額に反映)

このうち②~④は私たち不動産鑑定士が役所から依頼を受けて行う仕事となります。

管轄は②は地価公示は国土交通省、基準地価は各都道府県、③は税務署、④は各市町村となります。

※公示地価と基準地価は管轄は異なりますが、近いフォーマットを使って鑑定士が作業を行っており、趣旨と価格の水準はほぼ同じと言って差し支えないです。こちらのサイトでは公示地価と基準地価の詳細を見ることが出来ます。(都道府県から市町村をクリック)なお、地価公示に関してはポイントの概要の右上の「詳細を開く」をクリックすると概要の項目に「不動産鑑定評価書」が表示され、鑑定士が作成した評価書全5ページを閲覧することが出来ます。地価公示は一つのポイントに対しそれぞれ鑑定士二人で対応しているので評価書は二種類表示されます。

これらは「人為的な判断」の結果として算出しているもので、概ね以下の比率を目安として価格を決定しています。

公示地価=基準地価×0.8≒相続税路線価

公示地価=基準地価×0.7≒固定資産税路線価

要するに公示価格と基準価格の水準はほぼ同一であり、この水準に0.8を乗じた(20%減)価格が相続税路線価、0.7を乗じた(30%)価格が固定資産税路線価の水準になるという話です。

なお、こちらのサイトは公示価格、基準価格、相続税路線価、固定資産税路線価が確認できる非常に有用なものです。

情報の更新が少し遅い点(これを書いている令和4年10月時点で発表済みの相続税路線価が令和3年)が難点ではありますが。

例えば、高級住宅地である田園調布に存するポイント太田-4を見ると令和3年の公示価格の㎡単価は108万/㎡、同時期の路線価は86万/㎡、固定資産税路線価は74万2千/㎡で大体その水準を目安として価格が決められているのが分かります。

公示価格

相続税路線価

固定資産税路線価

 

それでは、公示地価、基準地価と「実勢」とはどれくらい違うの?という話になりますと、これについては諸説(実勢は公示より5%高い等々)見聞きしたことがありますが、「場所やその時に経済状況などにより異なり、一概には言えない」というのが正解かと個人的には思っています。

そもそもすべての不動産についての正確な「実勢」なるものは「神のみぞ知る」という話でしょうし。

ですがひとつ言えることは、都心の商業地など地価が高いエリアに存する物件は、特に市場が過熱している時期においては実勢は公示価格より高くなる(実勢>公示地価)傾向があり、逆に郊外で過疎化しているエリアに存する物件は、特に市場が落ち込み気味の時期において実勢は公示価格より低くなる(実勢<公示地価)となる傾向があります。

何故この様な乖離が発生するかというと、公示価格の変動は結果的に税金の算出にも影響を及ぼすため、急激な実勢の価格変動を結果に反映させ辛い点が理由の一つとしてあります。

また、公示価格という制度の目的は、その根拠となる地価公示法の条文の中で「適正な地価の形成に寄与する」為と記載されています。

換言すると、土地価格を人為的な指標として定めることで、あまり極端な上がり下がりを抑制し、安定して推移させたいという目標をもって誕生した制度のため、その建前上実勢が大きく動いていても、その変動率をダイレクトに反映した価格を公の水準として発表し辛いという側面がある訳です。

私自身は小学生だった昭和58年頃、東京への一極集中の拡大、外国資本の東京進出などを背景として都心ビル用地の急激な需要増に始まる土地の価格高騰から、昭和60年9月のプラザ合意による円高是正対策としての金融緩和を決定打として、後に所謂「地価バブル」と言われる異常な地価高騰の状況へと突入、さらにその後の不動産への融資総量規制などの影響による急激なバブル崩壊という目まぐるしい地価の変動期に、この地価公示に携わっていた鑑定士の先生方の苦労は想像に難くありません。

興味深い詳細はこちらの本に書かれています。

この時期の鑑定業界については色々と批判的な話も伺っていますが、結果論的な印象もあり、その渦中では人間誰でも周囲の雰囲気に呑まれて、視野狭窄になっていても仕方がなかったのではと思う部分もあります。

地価バブルがはじけた後の地価は以降右下がりであり、近年は一般住宅地に関しては、一部の地域を除きそれほど極端に変動している印象は無く、私の地元である三郷市周辺に限って言えば実勢との乖離は少なく、それなりに参考になる水準で落ち着いた印象です。

金融緩和で低金利の状況は継続中なのに、何故土地の価格は上がらない(一部の土地は上がっていますが、国全体的に上がってはいないという意味です)のか?については、何れ考察してみたいと思います。